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食品産業膜技術用語集 |
![]() 食品膜・分離技術研究会 会長 渡辺敦夫 |
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食品膜・分離技術研究会 会長 渡辺敦夫
1.用語統一の動き
ROは海水の淡水化技術として開発されたものであり,食塩阻止率が高く,水透過流束の高い非対称構造のRO膜が開発されて以来,急速に工業分野への膜技術導入の研究開発と実用化が進められた。UFもこうした動きに伴もなって発展した技術である。最近では、ROとUFの中間領域の分離を行うナノ濾過(NF)が、水道水の浄化等で利用がはかられるようになってきた。
海水・カン水からの淡水、超純水、ボイラー用水の製造など,造水分野での研究・工業化が先行したため,膜技術用語はこの分野だけを意識したものとなっており,食品産業ではやや不適切と考えられる用語を使用せざるを得なかった。しかしながら,食品産業での膜技術の研究が進み,実用化がつぎつぎとはかられていく内で,食品産業に適した用語に改める必要性を感じていた。
こうした背景のもとで,1985年に大学および産業界の方々の協力により膜処理技術用語集作成委員会(座長;渡辺敦夫)が組織され(表1),食品産業膜利用技術研究組合の活動の一環として食品産業膜利用技術用語集1)(以下食品膜技術用語集とする)が作成された。
表1.膜処理技術用語集作成委員
木村 尚史 | 東京大学工学部化学工学科教授 |
大矢 晴彦 | 横浜国立大学工学部化学工学科教授 |
中村 厚三 | 東京大学農学部農芸化学科助教授 |
中尾 眞一 | 東京大学工学部化学工学科講師 |
渡辺 敦夫 | 農林水産省食品総合研究所食品工学部プロセス工学研究室長 |
神武 正信 | 雪印乳業株式会社研究所主管 |
富田 守 | 森永乳業株式会社栄養科学研究所副所長 |
廿日出郁夫 | 青旗缶詰株式会社技術センター次長 |
橘 孝六 | 味の素株式会社中央研究所課長 |
二宮 友二 | 住友ベークライト株式会社技術開発本部担当部長 |
中込 敬祐 | 日東電工株式会社メンブレン事業部滋賀工場工場長 |
高橋 滋 | 日本酪農機械株式会社東京支社長 |
その後,通産省の委託により(財)日本規格協会が膜用語に関する工業標準(JIS)『液体の処理に用いる膜及び膜分離プロセスに関する用語について規定』を1989年にとりまとめている。また、日本液体清澄化技術工業会では、ろ過・膜分離・遠心分離用語集をまとめている。
そこで,ここでは食品産業膜利用技術用語集に沿って解説することにすることとし、その後の膜技術の発展の中で、食品産業で新たに利用されるようになった用語をMRCの有志役員のご協力を戴き追加することにより、『食品産業膜技術用語集 2009』として本稿に掲載した。
MRC会員および食品産業で膜技術に携わる方々のご意見を聞きながら更に良いものに改良していきたいと考えているので、是非建設的なご意見をMRC事務局にお寄せいただきたいと考えている。
2.用語解説
2-1 濾過法についての用語
2-1-a 逆浸透法,ナノ濾過、限外濾過法,精密濾過法
1-a-1) 用語の意味
逆浸透法;浸透圧の異なる溶液が半透膜を隔て接するとき,双方の浸透圧が均一になる方向,つまり,浸透圧の高い方へ溶媒が移動する現象を浸透現象という。ここで,溶液の浸透圧差にうちかつ圧力を高浸透圧液側に加えると浸透現象とは逆に,溶媒が低浸透圧側へ移行する。この現象を逆浸透現象という。この逆浸透現象を利用し溶液から溶媒(主として水、実際的には低分子量溶質もわずかであるが透過してしまう)を分離する方法を逆浸透法という。逆浸透法は、溶媒だけを分離する目的で利用されるが、低分子量溶質(主として、NaCl)の阻止率が90%以上のものを、一般には、逆浸透の範疇に入れ、低分子量溶質の阻止率が90%以下の場合はナノ濾過の範疇に入れている。
ナノ濾過法;食品産業では、分子量100前後から数1000程度の低分子量物質を分離する範疇の膜分離法をナノ濾過と定義している。塩等の荷電物質を分離する場合は膜の電荷の影響を受けるが、食品産業では単糖とオリゴ糖を分離する等の利用が広く行われるため膜の電荷をかならずしも考慮することは無い。ナノ濾過は、分子量の近似した低分子量物質相互の分離に利用されることが多い。その分離性能の発現は物質相互の透過速度の極めて微妙なバランスにより行われるものであるので、透過流束の変化により分離性能が変化する(物質の阻止率が透過流束依存性を持つ)ことに注意することが必要である。
限外濾過法;ナノ濾過法と精密濾過法の間に位置し、通常、分子量で数1000から数10万程度の領域で分画する方法である。蛋白質や酵素等、中・高分子量物質の分離に利用される。UF膜には、耐熱性・耐薬品性の高いものが開発されており、膜装置の衛生管理が容易になったため、食品産業での普及は進んでいる。
精密濾過法;0.1から数μm程度の微粒子を分離する濾過法であり、食品産業では無菌化濾過に広く利用されている。また、珪藻土濾過に代わる技術として実用化が進められている。
1-a-2) 解説
理想状態における浸透とは、膜を介して溶媒のみの透過を言うが、実際には完全な半透膜は存在しないため、多少溶質の透過が起こる。現在開発されている最もタイトなRO膜の食塩阻止率は99.7%程度であり、わずかであるが溶質の透過も起こっている。このようにタイトな膜を使用した場合でも、理想状態において定義されている逆浸透(浸透圧以上の圧力による溶媒のみの透過)とは異なることになるが、溶媒(主として水)の分離を目的とし、通常、NaCl阻止率が90%以上の場合をROという。
食品産業では、チーズホエイを濃縮しながらホエイに含まれる低分子量の塩類を分離することも行われており、この場合は溶媒も分離されるが、NaやK等の低分子量溶質の分離が目的であり、工業的にはNaCl阻止率が90%以下の膜を使用することになるのでNFの範疇に入る。
UFは、NFより分子量が大きく数1000程度から数10万程度の高分子量分子の分離に利用される。数1000の分子量はハッキリしたものでなく、あいまいであるが、一般的には、3000程度の分子量を指すものと考えられている。
同様にUFとMFの区別も明確なものではない。UF膜に孔径5から20nm程度の孔があいていることは電子顕微鏡で確かめられている。この程度の孔径の膜を利用すると分子量数1000から数10万の溶質が分離できる。MFは、0.1μm〜10μm程度の微粒子を分離するものと考えられており、0.2μm以下の孔径のMF膜で濾過することにより微生物はほぼ完全に除去することがでる。ミネラル水の無菌化濾過の後、無菌充填することによりペットボトルのコスト削減に大きく貢献している。
2-1-b 無菌化濾過
1-b-1)用語の意味
液状食品を無菌化するため、正確には、無菌の状態に近づけるため濾過すること。英語ではSterile Filtrationといわれる。
1-b-2) 解説
濾過により微生物を除去(Removal of Microorganisms)する方法は除菌ともいわれるが、除菌法には洗浄や遠心分離等も含まれるため、学術的に正確さを期すために、英語のSterile Filtrationの日本語訳である無菌化濾過という方が良い。
Sterileは、「殺菌(滅菌・消毒)する、あるいは無菌化する」の意味であるが、今までは、「無菌化する」とは訳されてこなかったようである。Sterile Filtration は、食品分野以外では、濾過滅菌あるいは濾過殺菌と訳されている場合もあるようだが、滅菌(日本語本来の意味は菌を滅するの意味であるが、微生物学的には総ての菌を滅するの意味とされている)も殺菌(菌を殺す)も、ここでの意味にぴったりしない。そこで、「無菌化するための、正確には、無菌の状態に近づけるための濾過」と解釈し、これを無菌化濾過の定義とする。
無菌化濾過は、常温あるいはそれ以下の低温での加熱を伴わない処理(Cold Sterilizationのことをいい、65℃付近の低温加熱処理を意味するPasteurization とは異なる)が可能であり、食品成分の化学変化は少ない。理想的には微生物と同じ程度およびそれ以上の大きさの粒子が除去されるだけであるので、(実際には、濾過面に形成されるファウリング層の影響で溶質の透過が阻止されることがあるが)生の風味が保たれるため最近の生ビールや生酒の消費拡大に見るように、現在の消費者の嗜好に合致した微生物の制御技術といえる。
無菌化濾過に使用される濾過技術は、酵母のように大きい微生物の分離では珪藻土ろ過が利用されているが、多くの食品の場合、0.1μm〜数μmの細孔径を有する精密濾過膜を中心に各種膜技術が利用されている。
透過液の無菌性を確保するためには、透過液側が十分清浄であり微生物が存在しないことが必要条件である。膜装置の休止時、供給液側と透過液側共に洗浄と殺菌が不十分であるとそこに微生物が増殖する。さらに運転時にも微生物が増殖し製品中に混入することになるので、洗浄と殺菌に耐えるサニタリー性の高い膜装置を使用することが必要である。
無菌化濾過を行うためには、装置内にデッドスペースのない、衛生管理が行いやすい構造の装置を使用しなければならない。特に、膜モジュール内の衛生管理を行うためには、膜の耐熱性・耐薬品性、洗浄性の高いものを選択する必要がある。
MF膜とUF膜の耐熱性・耐薬品性は向上しており、酸アルカリでの洗浄と100℃程度あるいは、それ以上での熱殺菌ができるモジュールが開発されてきている。NFにおいても洗浄時は90℃程度で熱殺菌ができる膜も開発されており、衛生管理は極めて容易になっている。特に、MFはセラミック膜の進歩が著しく、メンテナンスは極めて容易になっている。
加熱殺菌における生残菌数は殺菌時間に対して対数関数的に減少するとされており式(1.1)で表される。
ln(X / X0)=−kt (1.1)
ここで、X0;初期生菌数[cfu/mL]、X;殺菌処理後の生残菌数[cfu/mL]、k;死滅速度係数[1 / s]、t;殺菌時間[s]
膜により微生物の透過を阻止する性能(これを無菌化性能とする)は式(1.2)で示されるように、対数関数的に減少するものと考えられており、対数減少値(Logarithmic
Reduction Value; 以下LRVとする)で示されることが多い。
LRV=log10(BF / Bp) (1.2)
ここで,BF;供給液中の生菌濃度[cfu/mL],Bp;透過液中の生菌濃度[cfu/mL]である.透過液に菌が検出されなかった場合でも,Bp =0にはできないので、Bp≦1として計算する.
これは、一般的には、膜の阻止率Rは溶質の濃度に関係なく一定値を示すとされており式(1.3)で示されるが、式(1.4)で表すことができる対数溶質減少率LRVR(一般にはこの言葉は使われていない)に対応する。
R=1−Cp / CF (1.3)
LRVR=log10(CF / Cp) (1.4)
ここで、CF;供給液中の溶質濃度[mg/mL],Cp;透過液中の溶質濃度[mg/mL]である。
膜の対数減少値LRVは高濃度に培養した微生物の生菌数BFを測定した後、実際に濾過して透過液中の生菌数Bpを測定することにより算出される。
2-2 データ解析に関する用語
2-2-a 濃度分極
2-a-1) 用語の意味
濃度分極;膜処理を行うと、保持液側の膜付近において、膜を透過しない溶質が蓄積され、溶質の濃度が上昇する現象をいう。溶媒の透過にともない 溶質が膜面に移動してくる。溶媒は膜を透過するが、溶質は透過できないため膜面にとどまり、膜面の溶質濃度が高まる。濃度の高まった溶質は拡散によりバルク中に戻る。十字流濾過においては、膜面に移動してくる溶質と拡散により戻る溶質とが平衡状態になり、膜面の溶質濃度は一定になる。
2-a-2) 解説
濃度分極により、保持液側の膜面溶質濃度はバルク濃度より高くなるため、透過液側との浸透圧差は大きくなり透過流束が低下する。さらに、見かけの阻止率にも変化を生ずることがある。
濃度分極による透過流束の低下は、ROおよびNFにおいてはもちろん考慮されなければならないことであるが、高分子量成分を分離するUFにおいても大きな影響を与えるため、十分考慮する必要がある。
2-2-b 見かけの阻止率と真の阻止率
2-b-1) 用語の意味
見かけの阻止率;特定の溶質が膜により透過を阻止される割合を示す値で、直接測定できるのは見かけの阻止率であり、次の式で定義される。
Robs=(1−Cp / Cf)×100
モジュールの阻止率を示すときには、一般に、次の式で与えられる値を用いることが多い。
Robs={1−2Cp / (Cf+Cr)}×100
Robs:阻止率(正確には、見かけの阻止率)
Cp:透過液の濃度
Cf:供給液の濃度
Cr:保持液のモジュール出口濃度
見かけの阻止率は測定条件により変化するものであるので、膜の示す本当の阻止性能は濃度分極を補正した真の阻止率を測定しなければならない。
真の阻止率;特定の溶質が膜により透過を阻止される割合を示す値。濃度分極を補正した場合の阻止率で次の式で定義される。
R=(1−Cp / Cm)
R:真の阻止率
Cm:膜面における溶質濃度
Cp:透過液の溶質濃度
2-b-2) 解説
Rejectionを表す言葉として、阻止率、排除率、除去率が利用されてきた。この内、排除率と除去率が造水分野で使用される場合、透過液が製品であるため、膜が透過液中の溶質を排除する、あるいは、除去するという意味で一義的に理解されてきた。
しかし、食品分野では、保持液が製品となることもあるため、排除率と除去率という言葉は膜を透過して保持液中からある種の溶質が排除された、あるいは、除去されたと考えられやすい。そこで、まぎらわしいこれらの2つの言葉はできるだけ使用しないこととし、一義的に解釈される阻止率をRejectionに対応する言葉とする。
造水関係でも、食品産業膜利用技術研究組合の活動が活発な頃は、Rejection の日本語訳として阻止率が利用されるようになったのだが、この動きが逆行し、最近、除去率および排除率という言葉が頻繁に利用されるようになってしまったように感じる。これは、造水分野の急速な発展で若い研究者・技術者が増え、相対的に小さい膜利用分野となってしまった食品分野に対する意識が希薄になってしまっているためであろうと推察している。
いずれにしろ、食品関係では阻止率を使うこととし、除去率、排除率は使用しないことにする。
2-2-c 濃縮液、保持液
2-c-1) 用語の意味
濃縮液;膜により濃縮された液
保持液;膜処理を行ったとき、膜を透過しなかった液、食品においては、透過液を製品とする場合がある。透過液に注目した際に、膜を透過しなかった液に対して用いることが多い。
2-c-2) 解説
例えば、一般に、リンゴ果汁をUFにより清澄化する場合、膜の透過液が製品となるわけであり。膜を透過せず濃縮されたペクチンやパルプ質は副産物である。この場合、英語では、副産物をretentateと呼びconcentrateとは呼ばない。concentrateには「不純物などを除いて特定の成分を濃縮したもの」という意味があるからである。従来concentrateに対しては日本語として濃縮液が当てられてきたが、retentateに対しては統一された日本語がなかった。そこで、retentateを保持液と呼ぶことにした。しかし、リンゴ果汁をUFにより処理し、濃縮されたペクチンやパルプをジャム等の原料として利用しようとする場合には retentateが製品となるわけで、この場合、濃縮液ということができる。concentrate とretentateの両者を総称する場合には、保持液を用いる。
2-2-d 濃縮倍率、容量減少法
2-d-1) 用語の意味
濃縮倍率;供給液容量(重量)を濃縮液容量(重量)で割った値。濃縮液に注目する場合は、この語を用いてよいが、透過液に注目する場合は、容量減少率(重量減少率)を用いることが好ましい。
容量減少率;供給液の最初の容量を、処理後の保持液の容量で割った値。濃縮倍率を同意であるが、透過液に注目する場合は、この語を用いることが好ましい。
2-d-2) 解説
保持液と濃縮液の項で述べたように、保持液が製品でない場合、これを濃縮液と呼ばない。従って、供給液のはじめの容量VF(重量)と保持液の容量VR(重量)の比(VF/VR)を濃縮倍率(濃縮率)と呼ぶことは正しくないので、この場合は、容量(重量)減少率と呼びVRF(WRF)あるいは、RFと略すことにする。例えば100リットルの原液を20リットルまで容量減少させた場合、容量減少率5、あるいはVRF(または、RF)5と表す。リダクションファクターという場合は容量減少率を意味する。
2-2-e 逆圧洗浄法、逆流洗浄法
2-e-1) 用語の意味
逆圧洗浄法;透過膜側から保持液側に流体を透過させることにより膜のファウリング物質を除去する方法。
逆流洗浄法;通常の膜処理を行う場合のモジュール出口側から流体を入口側に送りモジュール内の流路閉塞物質や膜のファウリング物質を除去する方法
2-e-2) 解説
従来、逆洗という言葉があり、これらは、透過液側に液体を流すことにより洗浄を行う場合と、保持液の出口側から液体を導入し入口側に流すことにより洗浄を行う場合の両方に用いられてきた。
そこで、前者の意味では逆圧洗浄、後者の意味では逆流洗浄という言葉を当て区別することにした。
2-3 膜およびモジュールの機能低下に関する用語
2-3-a ファウリング、劣化、ゲル層、ケーク層、スケール、吸着層、生物的劣化、化学的劣化、物理的劣化
3-a-1) 用語の意味
ファウリング;目詰まりや付着層の形成により膜機能が低下するが、この両者の総称。膜自体の構造は変化しない。通常、可逆的な膜機能の低下である。
劣化;生物的劣化、化学的劣化および物理的劣化により、膜自身が変化し、機能低下を引き起こすこと。通常、非可逆的な膜機能の低下である。
ゲル層;濃度分極により、供給液中の溶解高分子量物質等の膜表面濃度が著しく上昇し、膜表面上に形成されるゲル上の非流動性の層。
ケーク層;供給液中の懸濁物質が膜表面上に蓄積されて形成された層。
スケール;膜による濃縮や濃度分極により供給液中の難溶解性物質の膜表面濃度が上昇し、溶解度を超えることにより膜表面上に析出した層。
吸着層;膜表面上に吸着された供給液中の溶解高分子量物質等の層。
生物的劣化;膜装置内に生育した微生物による膜の変化、代謝産物による化学的変化等の生物的原因により膜に自身が変化し、機能の低下を起こすこと。
化学的劣化;加水分解や酸素等の化学的原因により膜自身が変化し、機能の低下を起こすこと。
物理的劣化;膜の圧密化や乾燥などの物理的原因により膜自身が変化し、機能の低下を起こすこと。
3-a-2) 解説
膜の機能低下については、多くの言葉が用いられて来たが、はっきりした定義がなかった。そこで、以下のように分類することにした。
表2・1と表2・22)に示したように、機能低下を、ファウリングと劣化に分けた。
表2・1 ファウリングによる膜機能の低下要因とその作用
ファウリング…膜自体の構造は変化しない。通常,可逆的な膜機能の低下である。
フアウリングによる膜機能の低下要因 | 流体力学的透過抵抗 | 浸透圧による有効運転圧力の低下 | 分画分子量の変化 | |||
付着層 | ケーク層4) | 供給液中の懸濁成分が膜表面上に蓄積されて形成された層 | 微生物(スライム)・変性タンパク等 | ○1) | △2) | △3) |
無機コロイド等 | ○1) | △2) | △3) | |||
ゲル層 | 濃度分極により,供給液中の溶解高分子量成分の膜表面濃度が著しく上昇し,膜表面上に形成されるケル状の非流動性の層 | ○ | △2) | ○ | ||
スケール層 | 膜による濃縮や濃度分極により供給液の難溶性物質の膜表面濃度が上昇し,溶解度を越えることにより膜表面に折出した層 | ○ | △2) | △3) | ||
吸着層 | 膜表面に吸着された供給液中の溶解高分子量物質等の層 | ○ | △3) | ○ | ||
目詰まり | 吸着層 | 膜細孔内部に吸着された供給液中の溶解高分子量物質等の層 | ○ | ● | ○ | |
析出 | 膜細孔内部で溶質濃度が高まったり, pHが変化する等による溶質の析出 | ○ | ● | ○ | ||
閉塞 | 溶解成分あるいは懸濁成分が膜細孔内に詰まることによる流路の閉塞 | ○ | ● | ○ |
○ 影響大きい △ 影響少ない ● 影響ほとんどない
注1) | 操作圧の低いMF, UFにおいて影響を受ける。 |
2) | ダイナミック膜効果により内部に低・中・高分子成分が取り込まれ浸透圧の影響が出る。 |
3) | 高分子成分が内部に目詰まりすると, ダイナミック膜効果が発現する。 |
4) | ケーク層を微生物・タンパク等によるソフトケークと無機コロイド等のハードケークに分けた。これは, 食品関係者はケーク層というとソフトケークを, 水処理関係者はハードケークを想定しやすいので, 両者の理解を高める意味で分類した。 |
表2・2 劣化による膜機能の低下要因
劣化・・・膜自体の構造が変化する。通常, 非可逆的な膜機能の低下である。
生物的 | 膜装置内に生育した微生物による膜の資化あるいは代謝産物による化学的変化等の生物的原因による膜自体の変化 |
化学的 | 加水分解や酸化等の化学的原因による膜自体の変化 |
物理的 | 膜の圧密化や乾燥などの物理的原因による膜自体の変化 |
前者は、膜自体の構造は変化せず、多くの場合、可逆的に膜機能が低下する場合を意味し、膜の表面(あるいは裏側)に生じるファウリングを付着層、膜の内部に生じるファウリングを目詰まりと呼ぶことにした。後者は、膜自体が変化し、多くの場合、非不可逆的に膜機能が低下することを意味し、化学的、物理的、生物的な劣化の3区分に分けることにした。
2-3-b 生物汚染
3-b-1) 用語の意味
生物汚染;微生物およびこれらの代謝産物により、膜装置内が汚染され、食品の品質が低下させられること、膜機能の低下は意味しない。
3-b-2) 解説
膜装置内で微生物あるいはその代謝産物により処理液(食品)の品質が低下させられる場合と膜機能が低下させられる場合の2者に対して生物汚染という言葉が用いられてきた。しかし、前者の意味のみ生物汚染という言葉を用いることにする。後者の意味では、場合により、生物的劣化やファウリングという言葉を用いる。
3.おわりに
膜技術は汎用性の高い技術であるだけに、広い工業分野で、研究・実用化が進められてきたが、造水分野での大規模な膜技術の実用化が急速に進み、食品分野での膜技術の実用化は小規模であるためやや存在が薄れてきている感じを持っている。
食品産業界での膜技術の情報センターとして食品膜・分離技術研究会(MRC)が設立され長期にわたって活発かつ地道な活動を行ってきた。
こうしたMRCの活動を通じて、食品分野では乳業・各種ジュース業・飲料業・醸造業等の極めて広い分野で実用化がはかられ、今後も機能性成分の分離、新鮮な風味を持った食品、資源の有効利用、省エネルギー化等の分野でますます実用化がはかられていくものと考えられる。
そこで、本稿では、食品産業膜利用技術研究組合の活動の一環として作成された膜技術用語集に最新の情報に基づき加筆修正を加え、食品産業における膜技術の更なる発展の便に供していただくことを目的に本稿を作成した。
食品産業を含め、造水分野等他分野の方々も、是非、統一された用語に基づき膜技術の更なる発展のために研究開発を進めて行って戴ければ幸いである。
参考文献
1)膜処理技術用語集(食品製造における膜利用技術537ページ、食品産業膜利用技術研究組合)代表編集者;木村尚史・渡辺敦夫(1987)
2)食品膜技術―膜技術利用の手引き―((株)光琳)246ページ)監修;大矢晴彦・渡辺敦夫(1999)
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